施工
1年がかりの大工事です。 工事にあたっては、着工前の計画に半年ほどを要しました。 できるだけ古い部材を再利用して歪みを直し付属建物を一部減築するなどして元の状態に復元する取り組みが始まりました。
現場調査をしています。予算をにらみながら残す部材、取り替える部材を判断していきます。蟻害、腐朽のため建物は不動沈下していました。また、雨漏がひどく、大屋根、下屋共そこかしこで陥没し瓦が大きくずれた状態でした。
素屋根を組みます。雨風が吹き込んで工事中に建物が傷まないようにするためと急勾配の屋根上でも安全に作業をするためです。瓦は全て葺き替えですが鬼や巴蓋などの役物は直して再利用します。新しい瓦は乾式工法になります。
建物の歪みを直すには床をばらして腐った足元を取り替えなければなりません。土・野地ともにかなりの量です。野地は竹釘で留められていました。
基礎石が動いて地震の時に下ったりしないようにコンクリートで根巻きをします。既存の石の廻りに鉄筋を配し型枠で囲って打設します。斜めの木材は建物全体の傾きを直すためのものです。隣接している庫裏と繋いでいる部材をはずし、間に挟まっている土を撤去して垂直をだし、新しい壁ができるまで突っ張っています。長年傾いたクセがなかなか直せず工事終盤まで外せませんでした。
柱の足元も腐朽していたので根継をします。金輪継ぎです。最初は綺麗ですが柱上部の洗いをすると古い灰汁が垂れて仕上げの古色をつけるとそんなに目立たなくなりました。
250年以上の埃は想像を越えていました。小屋の掃除に1ヶ月以上かかりましたが、すっかりきれいになりました。棟札がでてきました。明和2年(西暦1765年)築と書いてあります。綺麗に拭いてもとに戻し、隣に「平成大修理」の新しい棟札を上げます。
棟木も腐朽していたので取り替えています。大丈夫にみえた隅木も上半分が腐っていました。両側から補強して軒先が垂れないようにしています。材料のてりを測るため古い茅負を外して同じものを造っています。丸い穴は、釘を打つためのものです。昔は長い釘が手に入らなかったので、材料の厚みを落としたと思われます。
蓑甲の野地板を張り替えています。破風板も傷んでいるので取り替えますが下魚や蛙股は再利用しています。茅負、裏甲、垂木なども、隅木まわりは傷んでいるので取り変えています。
向拝柱は四方共化粧で見えるために釘が打てません。両側から木材で挟み込んで揚げ前をしました。向拝の地松床板を削り直しています。雨と紫外線で表面がボロボロになっていた上に、黒ペンキが塗られていました。一旦ばらして再加工しやとい実を入れ直しました。5cmほど幅が縮んだ分、目立たないところで材料を足しています。
床組は、根太を細かく入れなおしています。向拝の床板はすっかり綺麗になりました。畳下には全て杉板を張っています。水平垂直が直るだけで少し立派になった気がします。
直した屋根を下から見上げています。この後、色あわせ塗装をして目立たなくします。最後に、全体の左官壁を塗りなおし塗装をしなおして完成です。
本堂にあわせて門も改修しています。ほぼ総欅造りの門でしたが、金物がなくなっていたり、板が割れたり下框が腐ったりしていました。建具は一旦バラシて削りなおしています。足元の傷んだ材を取り替え、一枚板は外して削り直し、金物も塗り替えています。
竣工
こうして書くとあっという間ですが、実際は1年近くかかりました。実は、本殿の手前にある大日堂と薬師堂も、改修し、参道も気持ちのよい空間になりました。出来上がった本殿です。屋根がきっちり直り、立派になりました。
向拝の床板も削りなおして昔の風合いに戻りました。位牌殿の建具、欄干は新しく造っています。この欄干は新しく作っています。
仏具が納められた内陣から須弥壇をみています。内陣は、新畳・襖張で見違えるようになりました。右手奥の柱は根継をしています。また、建物自体も10cmほど歪みを直し、床を水平に張りなおしています。
今回の改修では、着手時の想定を上回る建物躯体の痛みが解体後に複数個所で見つかりました。工事の規模を無尽蔵に広げないように、まだしっかりしている箇所と、痛んで修繕が必要な箇所、それ程重症ではないけれどこの機会に思い切って手を入れた方が良い箇所と、それぞれ現場の職人さんと相談・仕分けをしながら工事を進めました。お寺の材料の中には、寸法が大きく、直ぐに手に入らないものなどもありましたが、難しい発注も協力業者のみなさんに快く引き受けてもらい助かりました。工事担当の皆さんありがとうございました。
株式会社アラキ工務店様より資料提供いただきました。